おはようございます。まさきんです。
今回から「マーケティング」というカテゴリを始めてみます。デジタルマーケターとして働く中で読んできた本や、考えてきたことを、少しずつ書いていこうと思います。
初回は書評から。『分析力を武器とする企業』(トーマス・H・ダベンポート、ジェーン・G・ハリス著)という本です。
きっかけは「分析はもうかるのか」という問い
仕事をしていると、たまに聞かれることがあります。分析って、それ自体で売上を作れるんですか、という質問です。
正直に言うと、分析そのものが直接売上を生むことはありません。ただ、分析をしない会社がこの先生き残るのは難しくなる、という感覚は昔からずっと持っています。
本の内容: 分析力が競争優位になる理由
この本では、Googleやamazonのようなネット企業だけでなく、金融・メーカー・小売・サービス業まで、幅広い業界の企業が事例として紹介されています。
データや分析を軸にした経営で、競合との差を作っている企業の話です。分析力が競争優位になる理由として、本書はいくつかの条件を挙げています。
- まねされにくい
- 独自性がある
- 応用が利く
- 競合を大きく上回る
- 進化し続ける
なるほどと思う一方で、当たり前のようにこれができている会社は、実はそう多くないとも感じました。
本書がおもしろいのは、分析力を武器にした企業のたどってきた道が、一様ではないと指摘している点です。GoogleやAmazonのように創業時からデータ中心だった企業もあれば、ウォルマートや金融機関のように、必要に迫られてデータの扱いを強化していった企業もある。一部のスポーツチームやメーカーのように、ある段階を経て分析力を武器にした企業もある。始まり方はいろいろでも、たどり着く先は似ている、というのが本書の見立てです。
企業も、勘からデータへ判断基準を移していきます。同じ発想は、家計の固定費にも使えるかもしれません。僕自身、毎月のスマホ代を一度数字で点検してみようと思います。
「ファストパス」と「スローパス」という二つの道
分析力を武器にする企業に生まれ変わるには、どういう順番を踏めばいいのか。本書では、二つの進み方が紹介されています。
一つは「ファストパス」。経営層やエグゼクティブ層が最初から勘よりデータを信じ、そのための投資も惜しまない場合の進み方です。特急列車に乗るように、比較的早く全社的な変化が起きます。
ただ、現実にはこの状態にある企業はそう多くありません。多くの企業がたどるのは、もう一つの「スローパス」です。マーケティング部署のような小さな単位から始めて、地道な積み重ねで実績を作り、その実績をもとに他部署へ理解を広げていくやり方です。時間はかかるし、失敗する可能性も低くありませんが、初期投資が小さくて済むという利点があります。どちらの道を通っても、いったん分析力の影響力が全社に広がれば、その後にやることは同じだと本書は述べています。データを集め、人材を厚くし、継続的にアウトプットを出し続ける。この地道さこそが、分析力を武器にする企業の共通点なのだと思います。
分析力を支える、三種類の人材
もう一つ印象に残っているのが、分析力を活かすために必要な人材を三つの層に分けている点です。
一つ目は経営チーム。データの重要性を理解しているだけでなく、できれば個別の分析手法についてもある程度の土地勘を持っていることが望ましい、とされています。二つ目はプロフェッショナル。データを扱うための専門教育を受け、高度なスキルを持つ人たちです。最近は外注も可能ですが、分析力の核を外部に丸ごと依存してしまうと、企業としての競争力そのものが借り物になってしまう、というのが本書の指摘です。
そして三つ目、実は一番数が多く、一番重要だとされているのが「アマチュア・アナリスト」です。高度な分析スキルを持たなくても、現場の人間がデータの定義や扱い方を、正しく、かつ統一された形で理解していることが欠かせない、という考え方です。
これは実務でも強く実感するところがあります。僕自身、まったく同じデータが、チームによってまるで違う意味に解釈されている場面を何度か見てきました。同じ数字を見ているはずなのに、あるチームは好調のサインだと受け取り、別のチームは危険信号だと受け取る。原因はたいてい、データの定義や前提条件が現場にきちんと共有されていないことにあります。高度な分析基盤を整えるより先に、現場のアマチュア・アナリストの理解をそろえることのほうが、地味だけれど効果が大きいのではないかと感じています。この「共通言語をそろえる力」については、データ分析の仕事に必要な「通訳力」の話でも書きました。
今読み返しても、骨格は古びていない
この本が出たのは2010年前後で、もう15年以上前の本です。ただ、書かれている考え方の骨格は、今も十分に通用すると感じています。
ここ最近、AIの活用が「価値創造力」というテーマで語られることが増えてきました。生成AIによって、データの加工や集計、レポート作成といった作業そのものは、かなり自動化できるようになっています。だからこそ相対的に重みを増しているのが、KPIを見つけ出す力、データから勝ち筋を導き出す力だと言われています。単に「課題を解決する」だけでなく、そもそも「何を課題として設定するか」を考える仮説立案の部分が、人に求められる仕事として残っていく、という論調です。古くからある手法が今あらためて見直されている例としては、マーケティング・ミックス・モデリングもそうかもしれません。
分析ツールが進化しても、最終的に意思決定をするのは人です。数字をどう解釈し、次の一手にどうつなげるかという部分は、今も昔も変わらない仕事の核だと思っています。ファストパスもスローパスも、結局は「人がどう数字と向き合うか」を整えていく作業だという点で、地続きなのだと思います。
まとめ
古い本だからと敬遠せず、今読んでも学びのある一冊でした。分析力を競争優位にする、という発想は、企業経営だけでなく、家計を見直すときの姿勢にも通じるところがあるかもしれません。
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