おはようございます。まさきんです。
広告業界には、昔からよく知られる言葉があります。百貨店経営者ジョン・ワナメーカーの言葉として語り継がれてきた、“Half the money I spend on advertising is wasted”というフレーズです。広告費の半分は無駄になっている、ただしどちらの半分が無駄かは分からない、という意味です。
この言葉を覆そうとする試みのひとつが、マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)という手法です。最近、あらためて注目されているように感じるので、整理してみます。
最近は、もともとオンラインだけで完結していたサービスが、あらためてテレビCMのようなオフライン広告に予算を投じる、という動きも目立つようになっています。デジタル発の企業がマス広告に「逆流」していくと、当然ながら効果測定もオンライン指標だけでは済まなくなります。オフラインとオンラインをまたいだ施策の効果を、まとめて評価できる手法へのニーズが高まっているのは、こうした背景もあるのだと思います。
マーケティング・ミックス・モデリングとは
広告出稿や販促施策、競合の動き、季節要因といった、さまざまなマーケティング要因が、売上にどう影響しているかを、統計的にモデル化する手法です。
クリックやコンバージョンのように、はっきり数字で追える指標だけでなく、テレビCMや店頭施策のような、直接は計測しづらい要因もまとめて扱えるのが特徴です。追いやすい指標だけで良し悪しを判断してしまう怖さについては、CRMの本質を考えたときにも近い話を書いたことがあります。
以前は、一部の企業だけのものだった
僕が最初にこの考え方を知った頃は、実践のハードルがかなり高い手法という印象でした。
クリックやコンバージョンのようにきれいに数字が出てくるものだけでなく、はっきりしない・数字にしづらい要因まで集めてくる必要があります。加えて、媒体や枠ごとのコスト按分の考え方も複雑で、正直かなり骨の折れる作業でした。
導入が進んでいたのも、一部の先端的な企業に限られていた印象があります。マス広告の予算が特に大きい企業や、社内に広告代理店出身者がいる企業から、こうした動きが先に始まっていたように思います。広告主がモデリングに詳しくなるほど商材が売りにくくなる、という広告業界特有の事情もあり、代理店側からこの手法を積極的に啓蒙する動きは、そう多くありませんでした。
僕自身も、似たようなところがあります。会社の広告予算も、家庭の固定費も、なんとなくで決めがちです。携帯電話の料金プランも、比較せずに契約したままだったりします。数字で見直す習慣は、案外どちらにも効くのかもしれません。
2026年のいま、あらためて脚光を浴びている理由
ここ数年で状況が変わってきたと感じています。ただ、その理由を「クッキー規制でクリック計測がしづらくなったから」とだけ語るのは、少し不正確だと最近考えを改めました。
実際には、GoogleはChromeでのサードパーティCookie廃止計画をいったん撤回し、2025年10月には計画の柱だったPrivacy Sandbox関連APIの大半を終了しています(CHIPSやFedCM、Private State Tokensなど一部だけが残る形です)。つまり、Chrome側の規制強化という話は、当初の想定ほどには進んでいません。
それでも、SafariやFirefox、Braveといったブラウザは、もともとサードパーティCookieを標準でブロックしています。これらを合わせたトラフィック比率はおおよそ2割弱にのぼるとされ、全体で見ても15〜35%程度のトラフィックが実質的にクッキーレスな状態にある、という試算もあります。ラストクリックだけで「どの広告が効いたか」を語りきれない状況は、Chromeの方針転換後も変わらず残っているわけです。
そしてもう一つ、MMMへの注目を裏づける具体的な動きがあります。Google自身が2024年3月に、オープンソースのMMMツール「Meridian」を公開しました。従来のLightweight MMMの後継にあたるもので、エンジニアやデータサイエンティスト向けに、リーチ&フリークエンシーの考え方や、ROIパラメータへのドメイン知識の組み込みまで対応しています。クッキー規制うんぬんより、この「計測プラットフォーム自身がMMMに投資している」という事実のほうが、よほど説得力のある証拠だと感じています。
以前よりも扱いやすい分析ツールやデータが増えたことも、追い風になっていると思います。難易度が下がったとまでは言いませんが、以前よりは手が届きやすくなったのではないでしょうか。似たように「以前よりハードルが下がった」という変化は、パーソナライゼーションの3要素を整理したときにも感じたことがあります。実務として広告に携わる人に向けて、Nielsenがモデリングの考え方と実践的なチェックリストを無料で公開しているので、まず全体像をつかみたい人には参考になると思います。
導入が進む企業には、いくつか共通した特徴があるようにも思います。マス広告への出稿額がそもそも大きく、モデリングにかけるコストを回収しやすい企業。そして、社内に代理店出身者やデータサイエンティストがいて、外部のブラックボックスに頼りきらずに、自分たちでモデルの妥当性を検証できる体制を持っている企業です。逆に言えば、広告予算の規模がまだ小さい会社にとっては、無理に本格導入を急ぐより、まずはNielsenのようなチェックリストで自社の広告データがどこまで揃っているかを棚卸しするところから始めるのが現実的なのかもしれません。
それでも残る難しさ
とはいえ、オフラインの効果やブランディング効果を数字に落とし込む難しさは、今もあまり変わっていません。
数字にできない要因を無理やり数値化しようとすると、モデルの説得力がかえって落ちてしまうこともあります。実際にモデルを組み上げていく作業は、コンサルタントやデータサイエンティストと長く付き合うことになる、腰を据えた仕事になりがちです。さらに、出稿している媒体や代理店、社内の関連部署にまで理解してもらう必要があり、この合意形成の部分は、データ収集やモデル構築と同じか、それ以上に難易度が高い作業だと感じています。このあたりのバランス感覚は、ツールが進化しても、結局は人の経験がものを言う部分だと感じています。
まとめ
勘と経験だけに頼るのでも、クリック数だけを追うのでもない。その間を取る手法として、マーケティング・ミックス・モデリングの重要度は、これからも増していくのではないかと思っています。
会社の予算配分も、家庭の固定費も、たまには数字で見直したいものです。携帯電話の料金プランも、そのひとつではないでしょうか。
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